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福岡高等裁判所 昭和28年(う)94号 判決 1953年3月26日

控訴人 被告人 亀井一万

検察官 宮井親造

主文

原判決を破棄する。

本件を原裁判所に差戻す。

理由

被告人の控訴趣意はその提出にかかる控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。

その第二点について。

公職選挙法第百四十八条第二項で頒布の方法を制限される新聞紙は同条第一項に規定する新聞紙である。即ち選挙運動と見られる報道又は評論を掲載した新聞紙で同条第一項但書に該当しないものである。選挙に関する報道又は評論を掲載した新聞紙がすべて第二項の制限を受けるのではなくそのうち内容が選挙運動と見られるもののみが対象となる。選挙運動と見られないものはその頒布は自由である。而してこの選挙運動とは特定の選挙につき特定の公職の候補者の当選を目的として投票を得又は得させるために有利な行為をいうのであるから公職選挙法第百四十八条第二項違反の頒布罪として処断するためには右にいうところの選挙運動に該当する事実を判示しなければならない。しかるに原審が被告人は〃鶏知町長選挙に関し「鶏知の選挙」と題する同町長立候補の選挙運動状況を掲載した昭和二十七年五月十日付中外新報三百部を氏名不詳の三名に夫々手交しこれを同人等をして同町内に頒布せしめ以つて通常の方法によらないで選挙に関する報道を掲載した新聞紙を頒布した〃旨判示するに止まり各報道が如何なる選挙運動を内容とするかその事実を示すことなくたやすく右選挙法第百四十八条第二項第二百四十三条第六号を適用して被告人に有罪の判決を宣告したのは法令の解釈の誤又は審理不尽に基く理由不備があり原判決は到底破棄を免れぬ。論旨は理由があるのでその余の控訴趣意に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条第四百条本文に従つて主文の通り判決する。

(裁判長判事 西岡稔 判事 後藤師郎 判事 中園原一)

被告人亀井一万の控訴趣意

第一、被告人は月極め読者外に対して被告人の発行する中外新報を鶏知町内に頒布しました。これは犠牲紙として新聞の販路拡張の為め頒布したものであります。

このことは昭和二十七年五月二十三日馬場哲也作成被告人の第一回供述調書(記録八八丁参照)

十一、次に発行部数でありますがその対象は勿論有料購読者でありますが時宜により無料購読者をも対象とすることがあります。私はこの無料購読者を対象とする新聞紙を俗に犠牲紙と呼称してあります。

とあるによりて本件は被告人が新読者獲得の為め所謂犠牲紙を郵送する費用を省き路上の少年に交付したに過ぎないものでありまして所謂犠牲紙の頒布としては一般に観まして郵送に替ゆるに路上の徘徊者に直接の配布をすることは特異のことではなく即ち通常の方法であります。

第二、被告人が路上の少年に交付した本件の新聞の題目に赤線を施したことは丁度鶏知町に局限せる地方選挙の行われ居る際を利用して鶏知町民の関心多きことを取り上げた記事としている新聞を配布するについて注目を惹く為にいたしたことでその記事に被告人の主観を混へて候補者の何れかへ有利の記事を書いては居りませぬ。以上被告人が選挙運動をいたしたものでないことは明白であります。

而して被告人が候補者の一方を援助する意思の立証さるべきもののないことは原審記録中此の点に触れるものがなく且つ判決書にもその記載のないことによりて推知されます。

被告人に選挙運動の意思ない以上その発行する新聞紙を路上の少年に頒布するも公職選挙法に基く制裁を受くべきものにあらずと存じます。蓋し公職選挙法の制裁は選挙運動についての制裁であると思はれるからであります。

第三、判決に犯罪事実として被告人が氏名不詳の三名に夫々手交しこれを同人等をして同町内に頒布せしめたとのことを挙げてありますがこれは被告人の前記馬場哲也作成の被告人の第一回供述調書(記録九五丁参照)

十四、(前略)犠牲紙の頒布の方法についてはやや詳しく申上げますならばこれは決して私が纒めて俵亀寿候補者に渡したものではありませんこれは私が鶏知町に於て日頃顔馴染の同町の若者三人に渡して配らせたのであります。

とあることを証拠とするものと存ぜられますが記録中この被告人の自白を補強する他の証拠は見当らないようでありまして即ちこの自白が被告人に不利益な唯一の証拠となつて居るように存ぜられます。

右の次第で原裁判は犠牲紙の頒布方法を郵便に局限すると解し新聞紙の頒布は其目的如何を問わず選挙罰則の対象となると解し且唯一の自白を証拠としてありますから原判決は破棄を免かれざるものと存じます。

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